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有対動詞の自他の見分け方に関する一考察
zaigaihoujin kenshukai 2000 RIMG 13


有対動詞の自他の見分け方に関する一考察
-日本語学習者自身が自他を識別する方法を探る-

カナダ日本語教育振興会2004年度年次大会にて発表

(*本考察を引用や活用される方は本サイトに御一報下さい)
天野 修治

はじめに
<日本語教育の現場における自動詞・他動詞>  

 日本語学習者が「動詞の自他の区別」を学習項目として意識するのは、例えば「結果の状態」を示す「自動詞+ている」或いは「他動詞+てある」の形を学ぶ際である。学習者は「窓があい+ている」「窓があけ+てある」の「あく(自)・あける(他)」などの自他の対(つい)をなす動詞(以下「有対動詞」と呼ぶ)の存在を知ることになる。

<日本語の自他の不思議>
ところが、有対動詞の例として、例えば同じ「- く・- ける」で終わる「続く・続ける」と「焼く・焼ける」を比べてみると、「続く・続ける」= 「自動詞・他動詞」の順(「会議が続く」「会議を続ける」)であるのに対して、「焼く・焼ける」= 「他動詞・自動詞」の順 (「魚を焼く」「魚が焼ける」)、つまり「逆の順」になる。こうした「日本語の自他の不思議」を日本語学習者にどう説明するか・・・これがこの考察の動機である。

第1章  本考察の目的と手順

1-1 <目的>
私の試みの目的は「有対動詞を段階的に整理することによって、日本語学習者でも、どちらが自動詞か他動詞か見分けられる法則を探す」ということである。更に、その法則成立の核となる<「-く・-ける」の自他逆転のメカニズム>についても触れたい。

1-2 <手順>①本考察における「自動詞・他動詞の定義」を示す (→2章)
②本考察の所期の目的である<有対動詞の「五分類自他識別法」>を示す (→3章)
③「- く・- ける」の自他逆転のメカニズムを示す (→4章)
④「- く」の正体を示す (→5章)

第2章  本考察における自動詞・他動詞の定義

2-1 <自他定義の先行研究>
 日本語の動詞の態(ヴォイス)の先駆的な分類を残した本居春庭(1828年)の『詞の通路』を、本考察の「自動詞・他動詞」の定義の基本に置いた。
本居春庭は自動詞他動詞、受身使役など広義のヴォイスのことを「自他の詞」と呼んで、用言を次の六段に分けた。
一、おのづから然る・みづから然する  二、物を然する  三、他に然する 
四、他に然せさする  五、おのづから然せらる  六、他に然せらるる

2-2 <本考察における「自他の定義」と「自他の態(ヴォイス)上の位置」>
<本考察における「自他の定義」>
一、自動詞(1)「おのづから然る」:自然とそうなる (例)閉まる、
       (2)「みづから然する」:自身が移動する (例)乗る、
二、他動詞 「物を然する」:対象をそうする(例)閉める、乗せる
<自他の態(ヴォイス)上の位置」>
 日本語の自動詞・他動詞の態(ヴォイス)上の位置を確認するため、私は本居春庭の分類を基に更に二段階を加えて、次のような「日本語の態(ヴォイス)八段階分類表」を提案する。(*「半使役」「半受身」「半使役受身」は本考察での命名  ⁂( )は「使用頻度小」を示す)  

ヴォイス八段階分類表440pc JAPONES 2 001
<【 図表1】:日本語の態(ヴォイス)八段階分類表 >

この表では、「自動詞」だけが「制御」(強制・許諾を含む)から自由で、その他は、「他動詞→半使役→使役」と表の右へいくに従って「他への制御化」が増し、逆に「半受身→受身→半使役受身→使役受身」と表の左へいくに従って「他からの制御化」が増していることを表している

第3章  有対動詞の「五分類自他識別法」

3-1 <有対動詞の「五分類の型と組例」作成に当たって>
 第2章で述べたような日本語の自動詞・他動詞についての考えに基づき、私は有対動詞の「五分類の型と組例」を作成し、次の3-2に示した。なお、作成に当たっては、『岩波国語辞典 第三版』(採録総語数、約58,600語)を使用し、有対動詞をつぶさに拾った。また、幾つかはこれを越えて『日本国語大辞典 第二版』に拠った。
【複合動詞の扱い】:例えば、「立ち直る・立て直す」は「直る・直す」に代表させた。他の型についても同様に扱った。

3-2<有対動詞の「五分類の型と組例」>(*調査したすべての組例は【補遺】p6~p10参照)
(1)「-X₁・-す(せる)」の型 
(ア)「-X₁・-す(五段)」の型 
(イ)「-X₁・-せる(下一段)」の型(「-X₁」「-す(せる)」は終止形の語尾を表す。X₁ 印は
語尾を限定しない。以下X₂Y₁Y₂についても同様)
 (ア)「-X₁・-す(五段)」の型「合う・合わす」「明ける・明かす」など(計 118 組)
 (イ)「-X₁・-せる(下一段)」の型(但し(ア)「-X₁・-す」の型に入れたものを除く)「似る・似
せる」「寝る・寝せる」「載(乗)る・載(乗)せる」「寄る・寄せる」 (計 4 組 )
【(1)の考察】:(1)「-X₁・-す(せる)」の型では、対の一方の動詞の語尾(-X₁ 印)が何であっても、≪有標「-す(せる)」で終わる動詞のほうが他動詞≫で、もう一方の動詞は自動詞だと言える。

(2)「-れる(下一段)・-Y₁」の型(但し(1)「-X₁・-す(せる)」の型を除く) 「生まれる・生む」「売れる・売る」など(計 15 組)
 【(2)の考察】:(2)「-れる・-Y₁ 」の型では、対の一方の動詞の語尾(Y₁ 印)が何であっても
≪ 有標「-れる」で終わる動詞のほうが自動詞≫で、もう一方の動詞は他動詞だと言える。

(3)「-aる(五段)・-Y₂」の型
(但し(1)「-X₁・-す(せる)」の型、(2)「-れる・-Y₂」の型を除く) 「上がる・上げる」「預かる・預ける」など (計 64 組)
 【(3)の考察】:(3)「-aる・-Y₂」の型では、対の一方の動詞の語尾(Y₂ 印)が何であっても
≪有標「aる」で終わる動詞が自動詞≫で、もう一方の動詞は他動詞だと言える。
       
(4)「-ける(げる)(下一段)・-く(ぐ)(五段)」の型で「対象を欠損させる意味を持つ動詞」の組 
「欠ける・欠く」「砕ける・砕く」「裂ける・裂く」「削(そ)げる・削ぐ」「焚(た)ける・焚く」「解ける・解く」「砥(と)げる・砥ぐ」「抜ける・抜く」「脱げる・脱ぐ」「剥(は)げる・剥ぐ」「弾ける・弾く」「引ける・引く」「ほどける・ほどく」「剥(む)ける・剥く」「もげる・もぐ」「焼ける・焼く」(計 16 組)
 【(4)の考察】:≪「-ける(げる)・-く(ぐ)」の型で「対象を欠損させる意味を持つ動詞」の組は「自動詞・他動詞」の順になる。≫本稿ではこれを「自他の動詞を見分ける原則」の一つとして提唱し検証する。

(5)「-X₂・-eる」の型(但し、(1)「-X₁・-す」(2)「-れる・-Y₁」(3)「-aる・-Y₂」(4)「-ける(げる)・-く(ぐ)」の型で「対象を欠損させる意味を持つ動詞」、を除く) 「赤らむ・赤らめる」「開(あ)く・開ける」など(計 30 組)
【(5)の考察】:「-X₂・-eる」の型はこれまで「自-他」「他-自」のどちらの関係にあるかの判別はできないとされていたが、【(4)の考察】で述べた方式を採用すれば、≪分類の型(1)(2)(3)(4)に含まれない「-X₂・-eる」の型は「自-他」の順に対応している≫、と言える。 (例外:「見える・見る」「聞こえる・聞く」「煮える・煮る」)

【分類全体の例外】:分類の型(1)~(5)のどれにも当てはまらない有対動詞に「積もる(五段)・積む(五段)」 (-oる・-む)(自-他)がある。(『万葉』時代には「積もる」「積む」とも自動詞として使われ、平安時代に「積む」が他動詞の役割を果たすようになった歴史的経緯がこの組の特殊性を形成したと思われる)

3-3<五分類の各型の組数と割合> 各分類の型と例外の組数、及び本考察で「自他の有対動詞として取り上げた組の総数(252組)に占める割合」をまとめると次のようになる。(1)(ア)「-X₁・-す」=118組(47.0%)(イ)「-X₁・-せる」=4組(0.02%)
(2)「-れる・-Y₁」=15組(0.06%)(3)「-aる・-Y₂」=64組(0.25%)
(4)「-ける(げる)・-く(ぐ)」(対象を欠損させる意味を持つ動詞) =16組(0.06%)
(5)「-X₂・-eる」=30組(0.12%)
全体の例外=「積もる・積む」1組(0.004%)(2)の例外=「はいる・いれる」1組(0.004%)
(5)の例外=「見える・見る」「聞こえる・聞く」「煮える・煮る」3組(0.01%)〇『岩波国語辞典 第三版』の採録総語数約58,600語に占める割合  =252組×2÷58,600語=0.0086%【<「五分類」の各型の組数と割合>の考察】 分類(1)の型の組数が圧倒的に多く、語末「-す」の他動詞化の力の大きさは明らかである。 注目すべきは(4)「-ける(げる)・-く(ぐ)」(対象を欠損させる意味を持つ動詞)で、わずか「16組」(0.06%)しかなく、日本語学習者が覚えるのに難しい数ではないだろう。

3-4 「五分類自他識別法」<全体の考察>
 以上、有対動詞の組例を(1)から(5)までの型に分類してその自他を識別する方法を探る考察を試みた。その所期の目的は 「有対動詞の自他を日本語学習者でも見分けられる≪分かりやすいシンプルな方法≫を探ることである。イメージの捉えやすい図が有効である。
 そこで、リンゴをちょうど半分に切った断面を自他の対を持つ動詞群に見立てると、次のような図になる。表面側から一層ずつリンゴの「実」を剥いていくと「有対動詞の五種類の型」が分類されるということになる。必ず表面側から順に分類層が確認される仕組みである。これを五分類自他識別法の「リンゴ断面図」とする。 

リンゴ断面図440pc JAPONES 1 001                             
<【図表2】:五分類自他識別法の「リンゴ断面図」>

<「リンゴ断面図」の使い方> この図表を使って、例えば「続く・続ける」のどちらが自動詞か他動詞かを見分けてみよう。リンゴの表面側から順に一層ずつ実を剥いていくと、「続く・続ける」は(1)「-X₁・-す(-せる)」の型でなく、
(2)「-れる・-Y₁ 」の型でもなく、
(3)「-aる・-Y₂」の型でもなく、
(4)「-ける(げる)・-く(ぐ)」の型に当て嵌まりそうだが、この型には「対象を欠損させる意味を持つ動詞」という条件がついていて、「続く・続ける」はこれを満たしていない。
 こうして順に消去法で見ていくと、この語は(5)の「-X₂・-eる」の型に当て嵌まることがわかり、「続く」は自動詞で「続ける」は他動詞だということが確認できる。(1)型から(5)型へと優先順位を守って確認することで、一部の例外を除き、ほとんどの有対動詞の自・他を識別することができるようになったのではないかと思う。

第4章  <「-く・-ける」の自他逆転のメカニズム>

4-1 <「増殖・拡大」の「‐く」>と<「欠損」の「-く」> 
分類(5) 「-X₂・-eる」の型のから「-く・-ける」(自・他)の組例を拾ってみよう。「開(あ)く・開ける」「傾く・傾ける」「寛ぐ・寛げる」「退(の/ど)く・退(の/ど)ける」「背く・背ける」
「付(着)く・付(着)ける」「続く・続ける」「届く・届ける」「向く・向ける」 (計 9組)
これら四段(→五段)の自動詞「付く、続く」などは、いずれも「自己の視点から外部への方向性」を持ち「自己の増殖・勢力拡大」を暗示する意味を持つ。 これは、分類(4)で確認した他動詞「欠く、焼く」などが「勢力拡大の影響を受ける他者の視点」を持ち「他者の内部への侵食・欠損の拡大」を暗示しているのとは、明確な対照性を見せている。両者に共通するのは「方向性」であり、異なるのは「視点」である。 「-く・-ける」の型の「-く」(派生元の四段動詞)には「日本語の自他の初原的な性格」が色濃く残っている。 

4-2 「-く・-ける」の自他逆転の仕組み
分類(5) 「-X₂・-eる」の型の「付く・付ける」「続く・続ける」などは、
①まず「付く」「続く」などの「四段の自動詞」が発生②派生要素「-e」 の介入→③連用形「付け(Ke)」「続け(Ke)」が派生→④下二段の他動詞「付く」「続く」の発生→⑤下一段化され終止形が「付ける(Keる)」「続ける(Keる)」となったと思われる。一方、分類(4)「欠ける・欠く」「焼ける・焼く」の型では
①まず「欠く」「焼く」などの「四段の他動詞」が発生→②派生要素「-e」 の介入→➂連用形「欠け(Ke)」「焼け(Ke)」が派生→④下二段の自動詞「欠く」「焼く」の発生⑤下一段化され終止形が「欠ける(Keる)」「焼ける(Keる)」となったと思われる。これは「付く」「続く」の他動詞化とは逆の課程である。

第5章  語末要素「- く」の正体

 5-1 「-く」と「来(く)」との関係
 「来(く)」は「コ(此→此処=ここ)を指示した移動」であり、「外への方向性」を示している。
「歩く」(あちこち外へ動き回る)、「咲く」(内なる命が外へ形をとって開く)も同様に「来(く)」の痕跡がある。
 4-1で示した「-く・-ける」(自・他)の組例の≪語尾「-く」を持つ「自動詞」≫の語意を見ると、すべて≪「来(く)」 の「外への方向性」≫が確認できる。
(*以下の語源はいずれも『岩波古語辞典』の記述を参考にした。)
 「向く」(外部へ自己の方向をとる) 「寛ぐ」(外への伸び伸びとした方向性)
 「退(の)く」(外へ引き下がる) 「付(着)く」(外へ移動し一体化する)
 「続く」(途切れずに外へ移動し一体化する)
 
 5-2 <語末要素「-く」の日本語形成における経過> 「来(く)」の影響の色濃い「方向性」を暗示する語尾「-く」を持つ四段動詞は、次のような日本語形成の経過を辿ったと思われる。
(一)「自己の視点から外部への方向性を持ち、自己の増殖・勢力拡大」を意味の核
→「自動詞」 (例:付く、続く)として成立。
(二)その逆の「勢力拡大の影響を受ける他者の視点 を持ち、他者の内部への侵食・欠損の拡大」を意味の核 →「他動詞」(例:欠く、焼く)として成立。(三)語末要素「-e」の介入で、「自→他」「他→自」の下二段形を派生。
(四)今日の「-く・-ける」(五段・下一段)に「-く」の初原的な自動詞の性格あるいは逆の他動詞の性格を残す。

【補遺】
3-2 <有対動詞の「五分類の型と組例」>


(1)有対動詞の組が「-X₁・-す(せる)」の型
(「-X₁」「-す(せる)」は終止形の語尾を表す。X₁ 印は語尾を限定しない。以下X₂Y₁Y₂についても同様)

〇「ヲ格」をとりうる自動詞には(を)を動詞の前に付けた。
〇二つの自動詞あるいは他動詞がある場合には*印を付け、下に注釈を附した。

(ア)「-X₁・-す(五段)」の型

「合う・合わす」「明ける・明かす」「甘える・甘やかす」「余る・余す」「表れる・表す」「荒れる・荒らす」「癒(い)える・癒やす」「(を)生きる・生かす」「浮く・浮かす」「動く・動かす」「うごめく・うごめかす」「移る・移す」「写(映)る・写(映)す」「起きる・起こす」「遅れる・遅らす」「起こる・起こす」「落ちる・落とす」「驚く・驚かす」「おびえる・おびやかす」「及ぶ・及ぼす」「(を)下(降)りる・下ろす」「帰(返)る・帰(返)す」「欠ける・欠かす(*欠く)」「輝く・輝かす」「隠れる・隠す」「通う・通わす」「枯れる・枯らす」「(を)借りる・貸す」「乾く・乾かす」「消える・消す」「利く・利かす」「崩れる・崩す」「(を)下(くだ)る・下す」「覆(くつがえ)る・覆す」「眩(くら)む・眩ます」「暮れる・暮らす」「(を)越える・越す」「焦げる(焦がれる)・焦がす」「こじれる・こじらす」「こなれる・こなす」「こぼれる・こぼす」「困る・困らす」「凝る・凝らす」「(を)転がる・転がす」「転ぶ・転ばす」「壊れる・壊す」「刺さる・刺す」「冷める・冷ます」「覚める・覚ます」「騒ぐ・騒がす」「(を)過ぎる・過ごす」「空(す)く・空かす」「透ける・透かす」「滑る・滑らす」「済む・済ます」「削げる・削がす」「反(そ)る・反らす」「逸(そ)れる・逸らす」「倒れる・倒す」「足りる・足す」「散らかる・散らかす」「散る・散らす」「尽きる・尽くす」「潰れる・潰す」「照る・照らす」「(を)出る・出す」「(を)通る・通す」「尖る・尖らす」「解ける・解かす(*解く)」「(を)退(の/ど)く・退かす」「直る・直す」「(を)流れる・流す」「無くなる・無くす」「悩む・悩ます」「鳴る・鳴らす」「成る・成す」「慣れる・慣らす」「逃(に)げる・逃(に)がす)「逃(のが)れる・逃(のが)す」「濁る・濁す」「抜ける・抜かす(*抜く)」「濡れる・濡らす」「残る・残す」「伸びる・伸ばす」「生える・生やす」「励む・励ます」「捌(は)ける・捌かす」「剥げる・剥がす(*剥ぐ)」「化ける・化かす」「外れる・外す」「果てる・果たす」「(を)離れる・離す」「(思い愚が)晴れる・(思いを)晴らす」「腫れる・腫らす」「ばれる・ばらす」「冷える・冷やす」「増える・増やす」「更ける・更かす」「蒸ける・蒸かす」「膨らむ・膨らます」「震える・震わす」「凹む・凹ます」「減る・減らす」「ぼける(ぼやける)・ぼかす(ぼやかす)」「滅びる(*滅ぶ)・滅ぼす」「紛れる・紛らす」「負ける・負かす」「迷う・迷わす」「(を)回る・回す」「満ちる・満たす」「蒸れる・蒸す」「燃える・燃やす」「戻る・戻す」「漏れる・漏らす」「揺れる・揺らす」「汚れる・汚す」「沸く・沸かす」「(を)渡る・渡す」       
(計 116 組)
【図表】10:「-X₁・-す」の型の有対動詞

(イ)「-X₁・-せる(下一段)」の型(ただし(ア)「-X₁・-す」の型に入れたものを除く)

「似る・似せる」「寝る・寝せる」「載(乗)る・載(乗)せる」「寄る・寄せる」
(計 4 組 )

【図表】11:「-X₁・-せる」の型の有対動詞

【(1)考察】:(1)「-X₁・-す(せる)」の型では、対の一方の動詞の語末形態素( X₁印)が何であっても、
≪有標動詞¹⁰⁾「-す(せる)」のほうが他動詞≫で、もう一方の動詞は自動詞だと言える。

〖(1)参考1〗:「閉じる・閉ざす」の「とじる」(自他両用)は「とぢる」で、「とざす」(他動詞。と+さす)とは別語源により、ここでは自他の対とは扱わない。

〖(1)参考2〗:【自動詞が二つある組】:「滅びる(滅ぶ)・滅ぼす」:
「滅びる(『日本書紀』初出¹¹⁾)」や「滅ぼす(9c前半)」に比べて「滅ぶ」は連体形が12c後半の例としてあるが、その後は20c後半の例のみ。20c以降広まった語と思われる。本稿の分類では「滅びる・滅ぶ」(-iる・-u)の組はないので、「滅びる」も「滅ぶ」も「滅ぼす」と対と見れば自動詞と確定されることに問題はない。

〖(1)参考3〗:【他動詞が二つある組】:「欠ける(8c前)・欠かす(15c末)*欠く(9c半)」「解ける(8c後)・解かす(19c初)*解く(8c後)」「抜ける(10c末)・抜かす(17c初)*抜く(8c前)」「剥げる(10c半)・剥がす(9c初)*剥ぐ(8c後)」:「剥がす」を除いて、「欠かす」「解かす」「抜かす」は自動詞「欠ける」「解ける」「抜ける」から類推してできた他動詞形と思われる。これらについては分類の型(5)で「欠ける・欠く」「解ける・解く」「抜ける・抜く」「剥げる・剥ぐ」の組として分類。

(2)「-れる(下一段)・-Y₁」の型(但し(1)「-X₁・-す(せる)」の型を除く)
「生まれる・生む」「売れる(R-eる)・売る」「折れる(R-eる)・折る」「切れる(R-eる)・切る」「知れる(R-eる)・知る」「釣れる(R-eる)・釣る」「取れる(R-eる)・取る」「ねじれる(R-eる)・ねじる」「剥がれる・剥ぐ」「振れる(R-eる)・振る」「破れる(R-eる)・破る」「捲(まく)れる(R-eる)・捲る」「分かれる・分ける」「割れる(R-eる)・割る」
(計 14 組)
【図表】12:「-れる・-Y₁」の型の有対動詞

【(2)考察】:(2)「-れる・-Y₁」の型では、対の一方の動詞の語尾(Y₁ 印)が何であっても≪有標「-れる」で終わる動詞のほうが自動詞≫で、もう一方の動詞は他動詞だと言える。   

〖(2)参考1〗:(R-eる)は対の共通語幹にRを持つことを示す。それ以外の「-れる」(下一段)の文語は(下二段)「-aる」(自動詞をつくる語末形態素:分類(3)の型を参照)から来ている:「生まる」「剥がる」「分かる」

〖(2)参考2〗:(R-eる)の型は分類(4)(「-ける(げる)(下一段)・-く(ぐ)(五段)」の型で「対象を欠損させる意味を持つ動詞」の組)と関連性を持っていると思われる。 

〖(2)参考3〗:「入(はい)る・入(い)れる」は「入れる」のほうが他動詞。
「入【はい】る」は複合動詞「這入る」の転で形態上は「入れる」の対ではない。
→意味上から敢えて「はいる・いれる」を対とするならば、(2)の例外となる。

(3)「-aる(五段)・-Y₂」の型
(但し(1)「-X₁・-す(せる)」の型、(2)「-れる・-Y₁」の型を除く)

「上がる・上げる」「(を)預かる・預ける」「温まる・温める」「当たる・当てる」「集まる・集める」「改まる・改める」「受かる・受ける」「薄まる・薄める」「埋まる・埋める」「植わる・植える」「収(納)まる・収(納)める」「治まる・治める」「(を)教わる・教える」「終わる・終える」「重なる・重ねる」「(を)変わる・変える」「掛かる・掛ける」「固まる・固める」「被(かぶ)さる・被る」「絡まる・絡める」「決まる・決める」「極まる・極める」「包(くる)まる・包む(*包める)」「加わる・加える」「下がる・下げる」「(を)授かる・授ける」「定まる・定める」「静まる・静める」「閉(締)まる・閉(締)める」「備わる・備える」「染まる・染める」「高まる・高める」「溜(貯)まる・溜(貯)める」「捕(つか)まる・捕まえる」「掴(つか)まる・掴む」「浸かる・浸ける」「伝わる・伝える」「務まる・勤める」「繋(つな)がる・繋ぐ(*繋げる)」「詰まる・詰める」「強まる・強める」「連なる・連ねる」「留(とど)まる・留める」「止まる・止める」「挟まる・挟む(*挟める)」「始まる・始める」「はまる・はめる」「早まる・早める」「広がる・広げる」「広まる・広める」「深まる・深める」「塞がる・塞ぐ」「ぶつかる・ぶつける」「隔たる・隔てる」「(を)曲がる・曲げる」「混ざる(⋆混じる)・混ぜる」「交わる・交える」「まとまる・まとめる」「丸まる・丸める」「儲かる・儲ける」「休まる((を)⋆休む)・休める」「茹(ゆ)だる・茹でる」「緩まる・緩める」「横たわる・横たえる」
(計 63 組)
【図表】13:「-aる・-X」の型の有対動詞

【(3)考察】:(3)「-aる・-Y₂」の型では、対の一方の動詞の語尾(Y₂ 印)が何であっても≪有標「aる」で終わる動詞が自動詞≫で、もう一方の動詞は他動詞だと言える。                             


〖(3)参考1〗:「岩波国語辞典」では「預かる・預ける」は共に他動詞としているが、本稿では、2-2で示した自他の定義及び「岩波古語辞典」に従って「自他」の対とした。

〖(3)参考2〗:他動詞が二つある例:
    「包(くる)まる・包む(*包める)」:「くるめる」は「巧みにあざむく」の意を追加
    「繋(つな)がる・繋ぐ(*繋げる)」:「つなぐ(8c後)」は無対動詞。「つなげる(20c
         初)」は「つながる(19c初)」の対として登場し、「つないで長くする」の意を追加
    「挟まる・挟む(*挟める)」:「はさめる」は「はさんで落ちないようにする」の意を追加
  

〖(3)参考3〗:自動詞が二つある例:
「混ざる(⋆混じる)・混ぜる」:「混じる(8c後)」は「他の中に入って一緒になる」意で、
                  「混ざる(19c初)」は「他のものが入って一緒になる」意。
「休まる((を)⋆休む)・休める」:「休む」は「みづから」が離脱。
「休まる」は「おのづから」安らかになる、意。


                  
(4)「-ける(げる)(下一段)・-く(ぐ)(五段)」の型で「対象を欠損させる意味を持つ動詞」の組 

「欠ける・欠く」「砕ける・砕く」「裂ける・裂く」「削(そ)げる・削ぐ」「焚(た)ける・焚く」「解ける・解く」「砥(と)げる・砥ぐ」「抜ける・抜く」「脱げる・脱ぐ」「剥(は)げる・剥ぐ」「弾ける・弾く」「引ける・引く」「ほどける・ほどく」「剥(む)ける・剥く」「もげる・もぐ」「焼ける・焼く」
(計 16 組)
【図表】14:「-ける(げる)・-く(ぐ)」の型で「対象を欠損させる意味を持つ」有対動詞

【(4)考察】:(4)「-ける(げる)・-く(ぐ)」の型には自他が逆になる「続く・続ける」「付く・付ける」などがあるが、≪「対象を欠損させる意味を持つ動詞」(例:「弾ける」は勢いよく裂けて割れる)に注目すると、「岩波国語辞典」で調査したすべての組例(16組)で「自動詞・他動詞」の順≫になる。本稿ではこれを「自他の動詞を見分ける原則」の一つとして提唱し検証する。

〖(4)参考1〗:「欠かす(15c末)」「解かす(19c初)」「抜かす(室町)」「剥がす(9c初)」については(1)参考3(他動詞が二つある組)で触れている

〖(4)参考3〗:「ひらける・ひらく」は「ひらく」に自他両用があり、本稿では対とは見做さない。


(5)「-X₂・-eる」の型
(但し、(1)「-X₁・-す」(2)「-れる・-Y₁」(3)「-aる・-Y₂」(4)「-ける(げる)・-く(ぐ)」の型で「対象を欠損させる意味を持つ動詞」の型、を除く)

「赤らむ・赤らめる」「あつらう・あつらえる」「開(あ)く・開ける」「傷む・傷める」「浮かぶ・浮かべる」「屈む・屈める」「傾く・傾ける」「寛(くつろ)ぐ・寛げる」「苦しむ・苦しめる」「こもる・こめる」「退(の/ど)く・退(の/ど)ける(・どかす)」「沈む・沈める」「従う・従える」「進む・進める」「添う・添える」「育つ・育てる」「背く・背ける」「揃う・揃える」「違(たが)う・違える」「立つ・立てる」「違(ちが)う・違える」「縮む・縮める」「付(着)く・付(着)ける」「続く・続ける」「届く・届ける」「整う・整える」「並ぶ・並べる」「向く・向ける」「(を)休む・休める」「緩む・緩める」
(計 29 組)
【図表】15:「-X₂・-eる」の型の有対動詞

【(5)考察】:「-X₂・-eる」の型はこれまで「自-他」「他-自」のどちらの関係にあるか形態上からは判別できないとされていたが、この方式を採用すれば、≪(1)「-X₁・-す」(2)「-れる・-Y₁」(3)「-aる・-Y₂」(4)<「-ける(げる)・-く(ぐ)」の型で「対象を欠損させる意味を持つ動詞」の型>、に含まれない「-X₂・-eる」の型は(「見える・見る」「聞こえる・聞く」「煮える・煮る」を除き)「自-他」の順に対応している≫、と言える。


〖(5)参考1〗:(5)の型の例外:「見える・見る」「聞こえる・聞く」「煮える・煮る」:
これらの動詞は自他が逆になり、「-(ヤ行の)える・-X」の順で「自-他」に対応する。それぞれの自動詞に対応する古形はヤ行下二段動詞「見ゆ」「聞こゆ」「煮ゆ」である。


〖(5)参考2〗:(2)「-れる(下一段)・-Y₁」の型で触れたように「はいる(這入る)・いれる(入れる)」は形態上は対とは言えないが、意味上の対として、後で示す図表16(自他の有対動詞「五種類の型」の分類図)に加えた。
〖(5)参考3〗:「落ち着く・落ち着ける」「片付く・片付ける」は「付(着)く・付(着)ける」に代表させた。
〖(5)参考4〗:「明ける」(古語「明く」下二段)と「開ける」(古語「開く」下二段)の「け」の万葉仮名は次のように異なっている。

〇「明ける(自動詞):kë(乙)愛(は)しけくも いまだ言はずて 阿開(アケ)にけり 我妹(わぎも)(8c前・日本書紀・継体七年・歌謡)」
〇「開ける(他動詞):kë(乙)わが思ひを人に知るれや玉匳(たまくしげ)開き阿気(アケ)つと夢にし見ゆる(8c後・万4・591笠女郎)」
 
 両者とも「上代特殊仮名遣い」は乙類(ë)ではあるが、意識的に異なる漢字を当てていたかどうかは、『日本国語大辞典』においては漢字に当てた「e音」は一例ずつしかないので断定はできない。しかし、私は以下の『日本国語大辞典』<語誌>氏に同感である。
<「明(あ)く」は「暮(く)る」と対義語で・・・「開(空)く」とは差があるようである。>(『日本国語大辞典』「あく」語誌)

 なお、「焼ける」(自動詞、古語「焼く」下二段)「続ける」(他動詞、古語「続く」下二段)の連用形「やけ」「つづけ」においての万葉仮名の区別については、「やけ」は「夜気」、「つづけ」は「都々気」とあり、ともに「け」に「気」を当てているので、両者の万葉仮名での「け」音の区別の意識はなかったと見て良い。


【分類全体の例外】:(1)~(5)のどれにも当てはまらない有対動詞に「積もる(五段)・積む(五段)」(-oる・-む)(自-他)がある。(『万葉』時代には「積もる」「積む」とも自動詞として使われ、平安時代に「積む」が他動詞の役割を果たすようになったと思われる)


≪参考文献≫
大野晋、他(1990年)『岩波古語辞典 補訂版』岩波書店
金谷武洋(2002年)『日本語に主語はいらない』講談社
佐久間鼎(1966年)『現代日本語の表現と語法 増補版』くろしお出版  
須賀一好、早津恵美子(1995年)『動詞の自他』ひつじ書房
寺村秀夫(1982年)『日本語のシンタクスと意味 第一巻』くろしお出版  
時枝誠記(1950年)『日本文法 口語篇』岩波書店
西尾寅弥(1982)「自動詞と他動詞-対応するものとしないものー」『日本語教育47号』  
西尾実、他(1981年)『岩波国語辞典 第三版』岩波書店
日本国語大辞典第二版編集委員会(2001年)『日本国語大辞典 第二版』小学館  
本居春庭(1828年)『詞の通路』(山田孝雄『日本口語法講義』中)
森田良行(昭和62年)「自動詞と他動詞」『国文法講座6』明治書院  
山田孝雄(大正11年)『日本口語法講義』寶文館



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