2017/04
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<連載> 世界の中の日本語を考えてみる

conf ferrer haiku 023 世界の中の日本語 440pc

 日本語教育の実践の日々の中で、日本語という言語は世界の中で一体どういう状況にあるのか、世界に対してどういう役割を担うべきか、を考えることがあります。それは日本語を世界に広める仕事の一端を担う日本語教育に携わっている自分への問いかけにもなってきます。そんな思いを何回かに分けて少しずつ書き進めていきたいと思っています。


目次(タイトルをクリックすると該当記事に跳びます)
世界語としての日本語
世界への「お返し」


1 世界語としての日本語

 数年前、日本のある企業が英語を社内公用語にするというニュースが話題になった。世界企業になるためだと言う。それはそれで国際市場に進出する今日の戦略としてはいいのかもしれない。だが、将来を見据えた本質的な世界戦略として考えれば、当然疑問が出て来る。

 

 英語が圧倒的優位をもって国際的なビジネス共通語になっている現状はあるとしても、だからと言って、英語だけを世界語として、それに媚びているだけでは独自の母語を持っている独立した国の企業としては如何にも能がない。日本語も世界語のひとつとして敢然と立候補すべきではあるまいか。私は別に荒唐無稽な話をしているわけではない。

 

「日本語は難しい」から国際的に広がらないというのは、もう説得力がなくなった。日本語の語順の融通性、文法の実用主義的側面を見ると、こうした感覚論は引っ込めざるを得ないだろう。

 日本語には厄介な漢字がある、と言う。だがこれも外国人学習者にとっては、今日ではむしろ日本語の大きな魅力になっていることを、我々はよく知っているはずである。この日本語という言語を世界の中で考えてみたいと思う。

 

北欧を旅していた夏、スウェーデンのごく普通の商店で、「おなか」と平仮名で書かれたヨーグルトを地元の人がわざわざ指名して買って行くのを見た。初めは日本の旅人として軽い好奇心を抱いただけだったが、北欧の旅中に浮かんで来た断片的な思考が皆これに結びついていることに気がついた。

 

インドの片田舎にさえもコカコーラの缶が転がっているのを見て、作家の三島由紀夫は世界のアメリカ化に嫌悪感を示したが、実際にアメリカ的なるものの影響は今や地球上を徘徊している。それは単に「物」がその地に入ってくると言うに留まらず、物に付随する「メンタリティ」が人々の生活スタイルに影響を及ぼすことを意味している。コカコーラは今や世界のアメリカ化の象徴とすら言えるだろう。

 

ところで、私が具体的に興味を引かれたのは、ヨーグルトのパックに書かれていた「おなか」という日本語であった。一見飛躍した思考のようでも、その跡を辿っていくと全てここに帰結することになる。

 

日本の科学技術の成果は着実に海外にも浸透し、その製品は一定の評価を獲得している。日本企業の優秀さは日本製品への信頼を得、東洋の小国日本を短期間のうちに経済大国に押し上げた。いろいろ問題を含みながらも、とにかく世界の先進国の仲間入りを果たし、アメリカ、ヨーロッパの列国も日本を無視できなくなったのである。これは日本人に対する各国の信頼度にも影響を与えている。特に見知らぬ海外で一人旅をすると、パスポートコントロールなどの場でそれがよく分かる。


世界への「お返し」

 欧米に追いつけ、という一念で、ともかく日本はここまで来た。気がついてみると経済的には世界のリーダー格に伸し上がっていた。厄介な民族問題が他の国に比べると無きに等しいという幸運と、自国の防衛に膨大な国費と人力をつぎ込まない選択をしているお蔭で、日本は物質的繁栄を歴史的に観れば極めて短い期間に手に入れた。

 

しかもこの物質的進歩への献身は、当の日本人でさえも予想し得なかったほど日本人の体質に合っていた。エコノミック・アニマルというのは他国がやっかみ半分で否定的に日本人を形容したものだが、なるほど、日本人の体質のある部分を言い当てているかもしれない。

否定的に投げられた形容だが、ある種の才能には違いない。自分の眼で他国の生活を見て歩いた人には、そのことが身に沁みて納得できるだろう。日本は少なくとも物質的には国内に一種のパラダイスをつくってしまったのである。

 

だが、これからはそのパラダイスも難しくなっていくだろう。好むと好まざるとに拘わらず、日本は経済大国になってしまった。だがその意味を当の日本人にはほとんど理解できていないのではないか。成り上がりの悲しさで、自分の置かれた立場と責任の重さが、まだよく見えないのである。日本人にその自覚が無くても、他の国々は日本に経済大国としての責任と行動を要求してくるだろうし、直接、間接に、日本人の生活の中に占める外国・外国人の存在が増してくるだろう。

 

考えてみると、日本は古くは中国をモデルにし、明治維新後はイギリスを中心とする西欧先進国に範を採り、そして、第二次世界大戦後はアメリカを先生として、その時々の超大国から優れた物、知識、技術を吸収してきた。今、日本は経済面では実質的にアメリカ・中国と共に他より頭一つ抜き出る大きな存在になり、かつて日本の目標だった国々にその持っている物を吸収される対象となってしまったのである。世話になって来た世界に「お返し」をする番が日本に回って来たのである。

 

「お返し」は何も物に限ったわけではない。日本は古代中国から漢字を頂戴し、主に英語を通して欧米の進んだ文化・精神のエキスを吸収してきた。言葉こそ最大の文化である。我々には日本語という誇るべき財産がある。これを海外の一部の日本文化愛好者だけに独占させておく手はない。このことに気づいたのは日本人ではなかった。

 

いつの間にか日本語を学ぶ外国人が増えてきて、それが「外圧」となり日本側が重い腰を上げ、思いも掛けない事態にあたふたしている、というのが外国語としての日本語教育の実情であろう。私の見てきたここ二十数年の日本語教育は、この「あたふた」から果たして何歩かでも歩んだだろうか。(続く)



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