2017/04
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日本語のエッセンス(19)「時計」の発音は「トケイ」なのか「トケー」なのか
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(*写真:ゲームを通して語彙数を増やしていく。レベルの枠にこだわらず自由に表現させ、言葉を拾ってあげる)


日本語のエッセンス(19)「時計」の発音は「トケイ」なのか「トケー」なのか

 

時計」「映画」は「トケイ」「エイガ」のように「e+イ」と発音するのか、それとも「トケー」「エーガ」のように「eの長音」として発音するのか。「エ列+い」の表記と発音の問題は現在でも揺れていて、専門家の間でも解決の見通しを示せないのが現状のようだ。

 

元はと言えば、日本に「正書法」がないのが混乱の原因をつくっているのだが、「国語、つまり日本語には触らぬ神の祟りなし」の伝統がある日本では、これから先も、海外にある「言語アカデミー」のようなに日本語についてのしっかりした組織や規範が出来るとは考えにくい。

 

まず、第15国語審議会、第4回総会「仮名遣い委員会の審議状況について」(報告)(1)を見てみると、「エ列+い」の発音について次のような報告が見える。

 

林主査 

《次に,4の「えい,けい,せい,……」とエ列長音の問題であるが,「えい,けい,せい,……」の例としては「えいせい(衛生)」「けいえい(経営)」「せんせい(先生)」「きれい」「せい」など。「せい」は,背の高さと言うのと,あなたの所為だと言うときの「せい」である。「せい(背)」は別であるが,主として字音語であって,これらは普通には「エーセー」「ケーエー」のように発音されることが多いわけである。しかし,これについては「現代かなづかい」では何にも規定をしていないので,「えいせい」「けいえい」と書くことになっている。》

 

《これを長音と認めると,「エ列長音は,エ列のかなにえをつけて書く」,という細則第十一との関係はどうなるか。「現代かなづかい」では,その細則の語例として,「ねえさん」,「ええ」という応答の言葉が例に挙がっているだけであって,「えいせい」や「けいえい」その他の主として字音語の「えい」「せい」についてはそこで触れていない。》

 

《次に,「現代かなづかい」では,字音は「エイ」「セイ」だと認めて,エ列長音とは見ていないのではないかという御意見。確かにエ列長音とは認めなかったということになるのではないかというふうに思われる。

 

そこで,例えば「きれい」は「キレイ」から「キレー」まで実際の発音としては無限の幅を認めてよいということが,「現代かなづかい」制定の当時に説明があった,というような御注意もあったわけである。

 

また,エ列長音を「エ列のかなに【い】(をつける)」とするのがよい。すなわち,「ええ」と書かないで「えい」と書く方を本則にしてしまう,その方がよい,こういう御意見もあった。

 

それから,現状のままで何の矛盾も感じない。字音語の場合は,実際の発音はともかく,頭の中には完全に「えい」「けい」のように「い」で収まっている。「ねえさん」と「せんせい」とでは意識が違う。つまり,「ねえさん」の「ねえ」というところと,「せんせい」の「せい」というところでは意識が違うと思う,こういう御意見があった。》

(文化庁のサイトより抜粋)

 

時計(とけい)」「映画(えいが)」「丁寧(ていねい)」のような「エ列+い」の発音の問題は国語審議会の中でも様々な意見が噴出し、いまだにその解決策を得ていないことが、この報告からも見て取れる。

 

要するに「エ列+い」の発音は文字通り「-eイ」なのか、それとも「エの長音」として認識すべきなのか、という問題である。この問題は些細な問題のように見えるが、じつは国内の「国語教育」や外国人を対象とした「日本語教育」においては、看過できない基本的な問題として、明確な解決を求められるべきなのである。

 

では、国語日本語の使い方の目安となっている文科省の見解はどうなのか。

 

「現代仮名遣い」(昭和61年内閣告示第1号)では次のようになっています。

 

《え列の長音は、え列の仮名に「え」を添える。 例:ねえさん(姉さん)

 

かせいで(稼)、へい(塀)などは、「カセイデ」「ヘイ」と発音する者と「カセーデ」「ヘー」と発音する者があるが、どちらの発音をするかに関わらず、え列の音節に「い」を添えて表記する。》

 

これを観ると、現行の教育現場、とりわけ日本語教育の現場の一部では、この「現代仮名遣い」の指針がいかに軽んぜられていて、むしろ無視されているかのような動きがあると思わざるを得ない。

 

上記の説明は「e+い」が話者によっては結果的に「エイ」と聞こえないとしても、話者の認識は、意識的にせよ無意識的にせよ、必ずしも「エー」ではない、ということである。

 

ところが、小学生向けの国語教材会社の一部や外国人向けの日本語教育の教材会社の一部では、「エ列+い」を「エ列の長音」と断定して教材を作成しているのである。

 

日本語ではもともと同母音を連ねることを避けてきたし、「ei」などの連母音も欧米語のように明確には発音されないできた。しかし日本語の「ei」はあくまでも日本語の「ei」であって英語などの発音のように明確でないから短絡的に「eの長音」と見なすわけにはいかないはずである。日本語の「エ列+い」が「エ列の長音」であると自覚されて発音されて来たわけではないのである。

 

たとえば「時計」をローマ字で「tokee」と表記している日本語教材があるだが、これは勇み足と言わざるを得ないだろう。

 

アメリカの童謡『大きな古時計』や札幌市のイメージソング『時計台の鐘』でも「とけい」は明確に「トケイ」と発音されて歌われている。

 

現代の流行歌手である平井堅が「大きな大きな古時計」と歌っているのを聞いても、「フルドケ-」ではなく明確に「フルドケイ」と歌っていることは、現代の日本語母語者も「とけい」を決して「トケー」と認識してはいないといいうことではないだろうか。

 

因みに、「オ列+う」に関して言えば、歌謡曲で見ると、かぐや姫の歌った『妹(いもうと)』や内藤やすこが歌った『弟(おとうと)よ』でも明らかに「イモート」「オトート」と歌われていて、この点からも「オ列+う」は「オの長音」と認識されているという事実を補強している。

 

したがって、「オ列+う」が「オ列の長音」であることを引き合いに出して、「エ列+い」も「エ列の長音」と規定してもいいのではないか、と言う人がいるが、「おとうと」「いもうと」などは歌の場合であっても「オトート」「イモート」と「才列の長音」の認識で歌われているのを確認できることからしても、「オ列+う」が「オ列の長音」として発音されることは明らかで、歌においても「エ列の長音」と認識されていない「エ列+い」と同一視することはできない。

 

このことは先に挙げた「現代仮名遣い」の記述にある

《お段の仮名の長音の場合には、「お」のかわりに「う」を添える」》

という文言と矛盾しない。

 

戦いの前に士気を鼓舞したりするときに挙げる掛け声「えいえいおう」(曳曵応)はカタカナでは「エイエイオー」となって、googleの検索でも「エーエーオー」では出て来ない。

今日でも「えい」が「エイ」、「おう」が「オー」、と認識されている良い例である。

 

では、日本のローマ字表記ではどうなっているか。 

­文科省の「ローマ字のつづり方」(内閣告示第一号。昭和二十九年)では長音については、「そえがき 4 長音は母音字の上に「^」をつけて表わす。なお、大文字の場合は母音字を並べてもよい。」としか記されていない。

 

これは「ローマ字のつづり方」は「現代仮名遣い」に準じていることを示している。つまり、「エ列+い」に関しては「エ列の長音」ではなく「e+イ」と表記する、ということになる。したがって、「とけい」は「tokei,e列+い」は「-ei」と表記することになる。パスポートの表記も、「栄子」さんは長音符号「^」を使った「Êko」(エーコ)からの「Eko」ではなく「Eiko」(エイコ)となるのである。

 

因みに、「一郎」さんは「Ichirô」から「^」を取った「Ichiro」と表示される。

 

現行のローマ字表記の規定から見ても、「エ列+い」は「エ列の長音」とは見なされず「エ列+イ」として認識されていることがわかる。つまり「えい」の発音はそのまま「エイ」であると認識されているわけである。

 

この理由は,日本語の「えい」の 発音は普段は「エー」に 近い 発音をしているように聞こえることがあるが、本当は意識的にせよ無意識的にせよ「エイ」と認識されていることの証左になるのである。

 

国語審議会には「国語教育」や「日本語教育」の教材市場で先行解釈した勇み足の教材が出回っている現状を把握し、早急にこの問題を日本語の重要な問題として再審議していただきたい。

 

(*この小文は文化庁長官官房政策課に参考意見として提出しています。)


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