2017/02
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バルセロナのサムライ「ガウディの遺言」(13:最終章)真相
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(*写真:サグラダ・ファミリア 2026年完成予定イメージ。2016年現在、真ん中の塔の建設が進められています)



バルセロナのサムライ「ガウディの遺言」(13:最終章)真相

 

「あの“茶封筒”の中身は何だったんだ? お前は“機密書類”としか言っていなかったが…」

ラミロがサグラダ・ファミリアの塔から転落死した悪夢のような夜から一週間経ったある朝、佐分利の探偵事務所が開いたばかりの10時過ぎ、私はあの黒光りしたデスクを挟んで、佐分利と向かい合っていた。デスクの上には、いつものように眠気覚ましのエスプレッソコーヒーの甘い香りが漂っている。

 

佐分利は左手の甲で目をこすりながら、右手で小さなコーヒーカップの取っ手をつまんでそっと揺すりながら言った。

「あの中には“ガウディの遺言”が入っていたらしい。ガウディが亡くなる前々日に近しい友人が書き留めておいたものだ。ガウディは自分が手掛けた建築作品について様々な“心残り”をそこに述べたと言う」

 

「それで?」私は、この男のいつもの、もったいぶり、に横槍を入れるようにして言った。

「それで、なんでラミロが自分の命を賭してまで灰にしなければならなかったんだ?」

「まあ、そう急かすなよ」佐分利は私の肩越しに見えるガタピシャの窓の方に細い目を遣りながら続けた。

 

「その“心残り”の一つとして、サグラダ・ファミリア生誕のファサードに配置される彫刻にも言及した。三つの門のうち、左側の聖ヨセフに捧げられた“望徳の門”には、一見奇異に感じられる彫刻があるだろう?」

 

私はすぐに「ああ、あれか」と分かった。「嬰児殺しの兵士とその足元に縋り付く母親」の像だ。右手に刀剣を持った兵士が左手で泣き叫ぶ赤ん坊を掴んで上から投げつけようとして振り上げている。兵士の足元にはすでにぐったりとなっている別の赤ん坊がいる。そして兵士に懇願しすがりつく母親の様子が描かれている。

 

「あの“嬰児殺し”の像には、メッセージが込められている。つまり、サグラダ・ファミリア建設の初期に起きた忌まわしい事件の真相を暗示している」佐分利の眉間に皺がより、その細い目は一層細くなった。

 

「五十五年前、当時の地元の有力な司教がサグラダ・ファミリアのある石工の妻を身ごもらせ、生まれた嬰児を密かに殺してサグラダ建設敷地内に埋めた。その司教がバルセロナ大司教に抜擢されようとした際、教会内部でもその醜聞が持ち上がってきたんだ。妻を寝取られた石工の復讐、そして自分の大司教への選出を妨げかねない醜聞を恐れたその司教は、嬰児殺しの罪を石工に被せて口を封じようとした。つまり、自殺か事故に見せかけて石工を亡き者にした、ってことだ」ここまで一気に喋って、佐分利は椅子から立ち上がり、私の後ろ側の窓際へ近づいて行った。相変わらず、用心深い男だ。窓の外に誰もいないことを確認したのだろう。

 

「そうか、その石工の孫娘が今回晒首(さらしくび)にされたアンヘラさんで、司教の子孫とペドロ、ラモン兄弟が何らかの関係を持っている、という…」こう私が言うと、背後の窓際から佐分利の声が、囁くように聞こえてきた。

「そう。さすがだね」そして、私の左側に廻って、続けた。

 

「ペドロとラモンはまさに司教の孫だ。あの醜聞が教会関係者の間で噂に上り、石工がサグラダの塔から転落死した事件との疑惑も持たれたことが致命傷となって、司教は大司教の候補から外された。その後の司教一家は不運も重なり、子孫も辛酸を舐めるなどの末路が待っていた。まあ、こんなわけで、司教の孫の代であるペドロとラモンまで、あの石工一家に対する逆恨みが続き、むしろその見当違いの恨みは増して来て、その結果が今回のような陰惨な事件につながった…」

 

「なるほど。だけど、ガウディがなぜそのことを後世に残す必要があったんだろう?」私が思わずつぶやくように言った。

 

ガウディは死ぬ間際まで教会内の一部の司教たちの品行の腐敗に心を痛めていた。そして、あの石工の死の真相が曖昧のままにされ、自分の命の結晶とも言えるサグラダ・ファミリア内で、不埒な歴史が繰り返されるのを恐れた。まるで自分の心が汚辱にまみれる末路を知りながら死んでいくことに、我慢できなかったんだろうね。それで自分が確認した真相を、つまりは“嬰児殺し”並びに“石工殺し”の真犯人を遺言に暗示的に示した」

 

「そういう自分の家系と因縁のある遺言を知ったペドロとラミロが、石工の孫娘を脅威に思い込んで惨殺したり、ガウディの秘密の隠し部屋にある“遺言”を消滅させるに至った、というわけか」私の先読みに苦笑いしたが、佐分利はすぐに真顔になった。

 

「遺言と言っても、書かれた内容はそれだけではないからね。ガウディ自身の作品についての貴重な構想、とりわけ、サグラダ・ファミリアの完成イメージが、何らかの形で示されていたはずだ。それが灰になり、永遠に知ることができなくなった。後世の我々にとっても、取り返しのつかない、無念極まりない結果だ。今はただ、断片的に残された資料を元に完成図を想像するしかないんだ」佐分利は語気を強めて、吐き捨てるように言った。

 

そして、コツコツと床板を鳴らしながら小さく歩き回り、思い直したように言葉をこう結んだ。

「まあ、いずれにせよ、こういう怨恨の絡まる事件は難しいね。すべて明らかにすることが、当事者や関係者にとって幸せにつながるとは限らないし、われわれにとってもね…」

 

このサムライと呼ばれる稀有な才能を持つ探偵は、深い溜息をそっとつき、私の脇を通り、またデスクの向こうの古びた肘掛け椅子に疲れた身体を預けるように、腰を下ろした。

 

私は、すっかり冷めてしまったエスプレッソの残りを喉に押し込み、ふと後ろの窓に目を遣った。窓の外では、クリスマスソングが遠くに聞こえ、道行く人々もコートの襟を立てて忙しそうに行き交う。そうか、バルセロナにも冬がやって来たらしい。        

(「ガウディの遺言」完)




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