2017/06
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日本語のエッセンス(5)なぜ親に向かって「あなた」と言えないのか
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<*写真:グエル公園にて → 「ママ、首が・・」「ほんと、どうしたんでしょうね」
日本語のクビは、「斬首」(頸部から切り取られた頭部)のイメージからアタマも意味するようになったらしい。それで、漢字もアタマを意味する「首」にしてしまった、と言う。>

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日本語のエッセンス(5)なぜ親に向かって「あなた」と言えないのか

 

以前見たTVニュースから。

 

市長と市民団体代表との対話で、まず代表が市長に質問したのに対して、市長が「代表がまず説明するべき」のような物言いをしたので、代表がいきり立った。

 

代表・「あんた」が(ここに)呼んだんじゃないか

市長・「あんた」じゃないだろ?

代表・じゃ、「お前」か。

幾つかの遣り取りのあと、

代表・「あなた」は・・・・

市長・「お前」は勘違いしているんじゃないか?

代表・「お前」と言うな。

 

このあとは互いに罵声の浴びせ合いになり、早々に対話は終了した。

 

この市長と市民団体代表の平行線を辿る物別れは、二人称代名詞が多い日本語ゆえ、もっと言えば、「日本語に相手を怒らせない二人称代名詞が無い」がゆえに起こった悲喜劇、と言えるかもしれない。

 

この対話の中で使われた二人称代名詞の中で「あんた」「お前」はともかく、「あなた」は敬称ではないのか、と思われる方がいるかもしれないが、この「あなた」、かなり複雑な性格を持った二人称代名詞なのである。

 

対話の途中で、代表が市長に対して「あなた」と言い直しても、その「あなた」は市長にとって依然として「【あなた]じゃないだろ?」という気持ちになる表現だったのでないだろうか。もし代表が「市長は…」と言い直したら、険悪な雰囲気は変わっていたかもしれない。市長としては、飽くまでも自分の社会的地位・役割である「市長」と呼ばれるのが当然と感じたに違いない。

この対話では、発言の内容よりも対話者の互いの呼ばれ方が問題だったのである。

 

もっと身近な例を挙げてみよう。

もし、自分の子供に「あなた」呼ばわりされたら、親はどんな反応をするだろうか。

 

・親に向かって「あなた」とはなんだ。

 

と思うのが大方の親の心理だろう。そして実際その気持ちを子供に言い返す親もいるだろう。「あなた」は親の立場を根底から崩し、親のプライドをズタズタにする呼称なのである。

 

日本語の「あなた」は、言うまでもなく、英語の「you」には置き換えられないのである。




「あなた」は「貴方」「貴女」と当てて、書き言葉としては敬意を示すこともできる。しかし、面と向かっての実弾としての「あなた」は、寧ろ話し手の聞き手に対する「優位意識」を乗せて発する表現になっている。


少なくとも会話で発せられる「あなた」は、時代とともに明らかに変質し、いまや決して敬意を表す表現ではなくなったのである。

 

「君(きみ)」「お前」「貴様」は漢字からも想像できるように、以前は敬意を表していたことが分かる(「おまえ」は最高敬語である「お前様」から来ている)。

「あなた」も元々「彼方」であるから「容易に近寄れないほど高貴な方」への敬意を表していたが、やはり「お前」「貴様」などと同様に「優位意識」、更には「見下し」「侮蔑」表現へと転落していく運命なのだろうか。

 

こうして親に向かって直接「あなた」と言えないことを思い起こすと、現代語としての「あなた」の対人関係での位置が見えてくる。会話の場で相手を指す「あなた」は、話し手の聞き手に対する「距離感」を強調して「疎遠さ」を表し、更には、聞き手に対する話し手の「優位性」を誇示し「見下し」を演出するカードになるのだ。

 

ところで、妻が夫を「あなた」と呼ぶことがあるが、これは江戸時代からの伝統があり、別に考えたほうがいいだろう。

江戸時代、夫と離れた場所で暮らす妻たちが夫を「遠くに居る方」との意味で「彼方(あなた)」と呼び、それが目の前に居る夫を直接呼ぶ場合にも使われるようになった、ということである。




当時の「あなた」の持つ「疎遠さ」が「容易に近づけない高貴な身分の方」への「敬意」表現にも通じ、それが妻の夫への呼び名として江戸時代中期には定着し、一般に使われる「あなた」とは異なる「軽い敬意と親しみ」の表現として、今日まで続いているのである。

 

 

日本語二人称代名詞の一つであるはずの「あなた」は、基本的には「話し相手に直接は使わない」というのが日本語母語者間の暗黙の了解で、このことが「あなた」の日本語の中での奇妙な立ち位置を示唆している。


端的に言うと、「あなた」は自分の優位意識を満足させたい場合以外は、もはや書き言葉としてしか使いようがなくなったのだ。


顔と顔を突き合わせて話す実際の会話では、相手の名前か役割名(社長、先生、お父さん、など)が呼び名として使われている。仮に、名前も役割名も分からない場合でさえも、「あなた」という「厄介な名称」を避ける話し方をしているのが日本語社会の現状だ。

 

こうして「あなた」について改めて考えてみると、「対等」という人間関係を想定しにくい日本社会においては、ニュートラルな二人称代名詞は難しいことがわかる。

 

いや、これから「あなた」に代わる二人称代名詞が生まれたとしても、やはり「貴様」「お前」「きみ」そして「あなた」と同じ運命を辿って「優位意識」「見下し」「侮蔑」へとその品位を落とし、相手を怒らせずにはいられなくなる呼称に転げ落ちるのが見えてくるのである。



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