2017/02
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バルセロナのサムライ「ガウディの遺言」(5)二度目の襲撃



バルセロナのサムライ「ガウディの遺言」(5)二度目の襲撃

             
                                            

 スペイン、いやヨーロッパ中を戦慄させたサグラダ・ファミリアの晒し首事件は、ジェラード警部率いる警察側の懸命の捜査にも関わらす、目立った解明の進展のないまま、まる一週間が過ぎようとしていた。そして、まさにその夜、佐分利の身辺にただならぬ出来事が起こった。

 

佐分利は住居兼探偵事務所の向いに剣道道場を開いているのだが、夜も十時を過ぎ、彼がいつものように道場の戸締りを確認して、事務所に戻ろうとした時のことであった。

 

背後からもの凄い殺気を感じ、とっさに地面に伏せた。閉めた道場のドアに鈍い音がして何かが突き刺さった。地面に伏せたまま顔を横ざまに僅かに上げた彼の目に映ったのは、あの手裏剣だった。

 

月明かりに黒びかりした十字状の刃物が、つい最近自分を襲った、あの手裏剣だとすぐ分かった。彼は地面に這ったまま素早く身構え、左脇と地面の隙間から後ろを覗くと、黒い影が事務所の前を走り抜けて事務所裏の雑木林へ通じる小道へ消えて行くのが見えた。

 

                                                          

 佐分利は剣道の練習着のまま、とっさに竹刀(しない)を握り、黒ずくめの男を追った。彼の早朝のトレーニングの場である雑木林に、その男が逃げ込んだからである。あそこなら月明かりで充分動ける。勝手知った自分の雑木林だ。

 

暗闇を走りながら、三週間ほど前に自分を攻撃してきた黒ずくめの男を思い出していた。同一人物か、そうでなくともその一味に違いない。今さっき彼をかすめたものが手裏剣だとすぐに思ったのは、あの時、あの黒ずくめの男をみすみす逃してしまったことが彼の中で引っ掛かっていた証拠だ。

 

雑木林に入ると、すでに佐分利は懐の礫(つぶて)を右手で握っていた。竹刀は左手一本でも自在に操れる。雑木林は月明かりと事務所の明かりが漏れていて、身体能力に恵まれた彼が動くのに問題はなかった。

 

だが、これは黒ずくめの男にとっても同じことが言える。佐分利は息を止め、枯葉を踏まぬように木の根元から根元へと足を忍ばせながら、木々の上に目を遣った。前回襲撃された際、黒ずくめの男が枝になっていたのを覚えていたのだ。あの男が息を潜めても、並外れた直観力を持つ佐分利には、気配はすぐに分かる……

 

サムライは右手の礫を、その朽ちかけた""の真ん中に音も立てずに放った。

                                                                                                                                                                                                                  

 

 サムライの投げた礫は、その“枝”を真ん中からしならせた。その瞬間、むむ、という微かな呻き声を彼は聞き逃さなかった。続けざまに放たれた次の礫は、“幹”の瘤に鈍い音を立てて命中した。

 

ぐらりと落下しそうになったが、かろうじて本物の枝に左手の先を引っかけた黒ずくめの男は、ほとんど同時に右手から黒光りするものを放った。唸り声を挙げて顔を襲ってくるそれを、サムライは左手の竹刀で叩き落とした。またも手裏剣だった。

 

雑木林の暗闇にも目が慣れ、黒ずくめの姿が月明かりにうっすらと浮かび上がった。顔もすっぽりと頭巾で覆ったその男は、そのまま枝に掛けた左手一本で反動を付けて、一回転しながら奥の木に飛び移った。なんて奴だ。サムライは呆れながらも、礫の手ごたえを感じていた。素早く奥の木へ走り、黒ずくめを追い詰めた。明らかに右ひざを庇う動きに、黒ずくめの焦りさえ窺われた。

 

今回は逃がさない。その木を見上げたサムライは懐から二つの礫を取り出し、それを同時に放った。尋常の人間が投げつけた礫ではない。サムライの並外れた集中力が、驚くべき身体能力と相俟って、彼の右腕を振らせたのだ。そこから放たれた二つの礫は生き物のようにしなり、夜のどす黒い空気を震わせながら、黒ずくめの男の両足の膝に突き刺さった。むむ、という短く低い声が聞こえた。

                                                          

 間髪を置かず、サムライは右手を伸ばし、ひらりと跳んだ。そのまま太い枝に手を掛けエビ反りになったかと思うと、次の瞬間、黒ずくめの男のすぐ前の枝に飛び移った。

 

男は中央の幹の股に体を支えていたが、とっさに背中の刀身を抜こうとして右手で柄に手を掛けた。が、竹刀が唸るのが早かった。サムライの左手から撃ち込まれた竹刀の先が、肩越しに上げた黒ずくめの右肘を痛打した。男は動揺を隠せず、ちらと下に目を遣って、すっと姿を消した。

 

木の根元に跳び下りた男は、たまらず、うう、と呻き声を挙げて膝を抱えた。先ほどサムライの放った両膝への礫が効いていたのだ。男は、覆面の顔を僅かに上げ、木上のサムライの姿を確認すると、懐から何かを掴み投げつけた。それは、よけたサムライの足元で、ぼむ、と鈍く破裂し、一面に煙幕を張った。

 

ようやく暗闇に目が慣れていたサムライだったが、霧状の煙が男の姿を隠し、目にも刺激物が入り込んできた。彼は針のように眼を細め、下の黒ずくめ目指してムササビのように跳び掛かった。竹刀はすでに右手に持ち替えていた。

                                                                          

 

 左手でバランスを取りながら右手の竹刀を振りかぶって跳び掛かったサムライは、跳んだ瞬間に舌打ちをした。果たして、彼は虚しく落ち葉溜りの上に着地した。木の下に蹲(うずくま)っていたはずの黒ずくめの男は、すでにサムライの背後の暗闇に消えていた。


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