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バルセロナのサムライ「ガウディの遺言」(3)悲劇の序章




 バルセロナのサムライ「ガウディの遺言」(3)悲劇の序章


 ジェラード警部は、尖塔に晒された生首をじっと見つめたあと、顔を顰(しか)めながら
「人間のすることか……」と呟いた。彼は「モソ」と呼ばれるカタルーニャ州の自治州警察でも古株の名物警部である。

巨漢を斜め後ろに捩じり、鬼才画家ダリそっくりの髭を撫でながら、
「ところで、サムライ、君はなんでこんなに早くこの事件を嗅ぎ付けたんだね?」と佐分利に話しかけた。サムライは、寝起きに慌ててやって来たものだから、ひどい寝癖の髪を押さえ付けながら、
「今回はこいつのお蔭で」と横にいる私に目を遣った。

 私はサムライと一緒にバルセロナの大学院で日本学を研究していたが、サムライは江戸犯罪、私は日本古代建築とそれぞれの興味にのめり込んで行くうちに、彼は探偵、私は建築家を生業とするようになった。 この陰惨な事件が起こったサグラダ・ファミリアで主任石工(いしく)を任せられている日本人、加納公彦は日本の大学時代の悪友である。

今回は、加納が第一発見者ということで、早朝、警察への連絡と同時に私を電話で叩き起こしてくれた、というわけである。私がサムライの探偵事務所に関わっていることをすぐに思い出してくれたようだ。

 その生首は女のものだった。恐怖で吊り上った眉の下で諦めたような半開きの眼、濃すぎた口紅を悔いるような硬く喰いしばった唇、それらのパーツの間で幾分上向き加減の鼻が、唯一生前の彼女の愛らしさを訴えていた。

 鑑識に回される前に、サムライは念入りに女の生首を見て、
「素晴らしい金髪だけれど、ここ一週間は手入れができていないね」とロープに結わえられた頭髪の根元の黒髪を指差した。陽もすっかり上がっていて、もう生首の細部にわたって鮮明に見える。

「それに、左の頬と顎の下の傷は、比較的古いものだ」そう言ってサムライは手早く携帯でアングルを変えながら写真を数枚撮った。そして、愛用の黒手帳に何やら細かくメモを取ったかと思うと、
「引き上げようぜ」と私の袖を引っ張った。そしてこの事件の第一発見者である主任彫刻家に目配せして、
「のちほど私から電話を」と人差し指でダイヤルを回すような円を描いた。
                                                             
 加納公彦はガウディの心を伝える彫刻家として、ヨーロッパ人以外で初めてサグラダ・ファミリアの主任石工に任命された。チョウコクカ?背中がムズムズするね。俺は石工になるためにスペインまで渡ってきたんだ。イシク、だよ…加納の口癖である。

神が時間を作り、悪魔が時計を作った……ガウディの時空を超えた芸術観を最も具現化できる石工としてガウディの信望者たちは、この極東から裸一貫で来た若者に自分たちの夢を託した。

 

ガウディを見つめるだけでは何も見えてこない。ガウディは生涯を掛けて何を見ようとしていたのか、その視線の先をガウディと共に見つめることで、サグラダ・ファミリアのあるべき本当の姿が見えてくる……加納がかつて、私にぽつりと言った言葉だ。

 加納は地元やヨーロッパのベテラン石工や名のある彫刻家たちに推挙されて若くして主任石工になったが、もちろん、この極東からやって来た才能ある若造に対する嫉妬ややっかみがなかったとは言えない。彼の登場は、サグラダ・ファミリアの長い歴史の中でその伝統の精神を忠実に引き継ぐ救世主として、ガウディ信望者や古株の石工たちから大きな期待を掛けられた。

事実、加納も初めのうちは彼らの期待に沿った仕事をしていたが、徐々に彼の彫刻は作風を変えていった。ガウディが見つめていた先を、この若き石工は己の才能と合体させるように、周囲の期待を見事に裏切っていった。サグラダ・ファミリアの伝統的な彫刻とは一線を画するかに見える現代的な作風に変化していったのである。

 思えば、ここから思いもかけない一連の悲劇の序章が始まっていたのである。




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