2017/04
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バルセロナのサムライ「ガウディの遺言」(1)黒ずくめの男
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バルセロナサムライガウディの遺言」(1)黒ずくめの男

 

スペインはバルセロナに日本人探偵がいることを、耳にした人もいるだろう。ヨーロッパでは彼を「バルセロナサムライ」と呼んで、数々の陰惨な事件とともに記憶に留めている人も多い。

彼は嫌がるだろうが、彼の一番近くで事件を目の当たりにしてきた私は、このへんで、それらの奇怪な出来事の一部でも記録しておこうと思う。

謎に満ちた彼の探偵としての「サムライ」ぶりも、この際、世間に知らしめておきたい。もっとも、彼が私の執筆を寛容をもって見てくれるかどうか、だが。

         *


(1)黒ずくめの男

 

「あっ」と思った。その瞬間に、この男はバック転で逃れたが、危うく鼻先を切られるところだった。突然刃物が飛んできて驚いたが、それが手裏剣だと分かった時は、むしろ呆れてしまった。





何しろ今は
21世紀で、しかもここは地中海のほとりに位置するヨーロッパの都市バルセロナなのである。

 

 この男の名前は佐分利健。だが彼を知る者は、彼を「サムライ」と呼ぶ。この男の素性は追々触れていくことにして、とにかく今サムライの身に襲い掛かったことに戻ろう。

 


彼の鼻先をかすめた手裏剣は林の木の幹に突き刺さり、黒く鈍い光を放っていた。サムライは身を屈めながら慎重に辺りを窺(うかが)った。

 

 東の空はようやく白々と明けてきた。彼は早朝のトレーニング中にこの奇妙な事件に巻き込まれたのだ。すんでのところで命拾いしたサムライは、全身の五感を研ぎ澄ませた。そのまま身じろぎひとつせず、長い沈黙を遣り過ごした。

 

 何分ぐらい経ったであろうか、朝もやの林の中で幽かに葉の擦れる音を、サムライは聞き逃さなかった。その方向に振り向き際に、彼の手から礫(つぶて)が矢のように放たれていた。礫は古木の枝に当たりめり込んだ……と、その時、短い呻(うめ)き声が漏れた。




同時にその枝は古木から離れ落下した。枝と見えたのは黒ずくめの男の脚で、落下しながら一瞬その全身を垣間見せたが、ふわりと身を翻し湿った土を蹴ったかと思うと、ゴム毬のように跳ねあがり、枝から枝へ跳び、つむじ風を残して消え去った。

 

その様子を凝(じっ)と眼で追っていたサムライは、黒ずくめの男が木立の奥に消えるのを見届けると、微かにクビを右に傾けたが、それ以上深追いはしなかった。 

 

この出来事が後の奇怪な事件と関わってくるとは、私もサムライも思ってもみなかったのだが……。

 

 さて、バルセロナで探偵をやっているこの男と私の関係だが、バルセロナの大学院でともに日本学を研究していた仲間だった。その頃から優秀だった彼は、そのまま研究を続けていればすぐにでも教授になったのだろうが、江戸期の犯罪を探求しているうちに、どういうわけか探偵事務所を立ち上げてしまった。その気まぐれに私も付き合わされた、ということである。

 

「バルセロナの侍」こと佐分利健は当時32歳、バルセロナに探偵事務所を開設して7年。その類(たぐい)稀な身体能力と時に神懸かりかとさえ思える直観力で幾多の怪事件解決に関わってきた。私は事務所開設当初からこれらの事件と彼、サムライを誰よりも身近に見てきた。というより、共に命を危険に晒(さら)されてきた、と言ったほうがいいだろう。

 

 我々が関わってきた幾つかの事件の中でも、最も陰惨な事件の一つが、冒頭に紹介した「黒ずくめの男」のサムライへの襲撃が端緒となった、世にも奇怪な事件である。この事件は当時のスペイン、いやヨーロッパ中を震え上がらせ、今でも人々はその暗澹たる犯罪を思い出すたびに恐怖の面持ちで口に上らせるのである。





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tag : 小説 探偵小説 サムライ バルセロナ ガウディ

 
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