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「て形」に入ったばかりの初級クラス。しかし、漫画やアニメに関しての知識や好奇心は教師よりも遥かにレベルが上である。ジブリ映画の主題歌などもほとんどが日本語で歌えるから、初級クラスと言えども侮れない。
中上級クラスからは出ないような日本語の核心を突いた面白い質問を食級クラスから得る、という収穫も少なくない。そういう意味でも、初級クラスから出る質問の意外性は、教師にとって楽しみである。
一般に初級向けの日本語教科書は生徒にとっても教師にとっても面白みがない。初級クラスと言っても、個々の学習者の日本語のレベルはその好奇心の向かう角度によって、レベル超えをしていることが多い。
そこで、彼らの自尊心を満足させる方法として、私はときどきレベル超えの授業をする。
この日は「千と千尋の神隠し」のDVDを使って、彼らの好奇心を存分に発揮してもらうことにした。スペイン語版では「El viaje de Chihiro」(ちひろの旅)として知られている。
まず、タイトルにある「千」と「千尋」の関係について説明して予備知識を与えておく。「尋」という字は彼らにとってレベル超えの漢字だが、「たずねる」以外に「両手を広げた長さ」
の意味もあることを説明しておくと、「千尋」は「一ひろの千倍」かあ、と気づき、映画の中で湯婆(ゆばば)が千尋に「お前は今日から千だ」と言ったことの意味を考えるヒントになる。
学生からは次から次へ質問が出て、その都度、画面を停め、初級教科書には出てこない日本語の表現や日本文化・習慣について、媒介語であるスペイン語でコメントする。
湯屋で働くリンは千尋の世話役だが、男言葉である。私がそれを説明すると、「お前」は?「俺」は?と女子が使えるかどうか、質問してくる。丁寧でない普通形は男言葉と女言葉があってなかなか厄介なことを確認する。
だから、初級ではまず「ます」「です」を使った丁寧形から教わるんだ、ということが、彼らの中で合点がいく。
レベル超えの授業をすることの意味は、学生たちによく知られている「千と千尋」を使っても覿面(てきめん)に表れ、同時に、彼らの「日本通であるという自負心」も満足させてくれる。



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