2017/05
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<連載>日本人のための「日本語のエッセンス」第19章「富士山を」は「fujisan o」か「huzisan wo」か



<連載>日本人のための「日本語のエッセンス」
19章「富士山を」は「fujisan o」か「huzisan wo」か

 

(この小文は文化庁文化部国語課に参考意見として提出してあります。)

 

私はローマ字表記についての疑問を以前から持っていた。私のところ(スペイン、バルセロナ)へ来る日本語学習者で、独学や他の学校である程度学習してきた人の「を」の発音が「WO」になっていることが目立つことに気がついたのが切っ掛けだった。


もちろん「を」の前の音の影響によって自然に「
WO」に近くなったり、歌の場合、歌唱法として「WO」と発音するのは問題ないと思うが、日本語の五十音図の音節の発音としては「お」も「を」も「O」のはずである。平安中期までは「を」は「お」と区別されて「WO」と発音されていたようだが、現代日本語では音節発音上の両者の区別はない。

 


これは「日本式ローマ字綴り方」、あるいはパソコン等のローマ字入力で「を」は「
WO」で入力するようになっていることが影響しているのではないか。私は現在のローマ字表記の不統一さは早急に解決しなければならない問題だと思っている。ご存知のようにローマ字綴り方には「標準式(俗に「ヘボン式」とも言う。この小文では「ヘボン式」と呼ぶ)」「日本式」さらに両者の要素の一部を取り入れた「訓令式」がある、

 

「ローマ字のつづり方」(昭和29年 内閣告示第一号)では「訓令式」を原則として「しsi, ti, tu, hu, zi, o,zi, zu」などを第1表に掲げ、「まえがき」には「1 一般に国語を書き表わす場合は、第1表に掲げたつづり方によるものとする。」とある。


さらに第
2表には「しshi, chi, tsu, fu, ji,<*以上はヘボン式から> wo,di, du<*後の3つは日本式から>」(*は筆者注)などを掲げ、「まえがき」には「2 国際的関係その他従来の慣例をにわかに改めがたい事情にある場合に限り、第2表に掲げたつづり方によつてもさしつかえない。」とある。

 

即ち、現代日本語のローマ字の書き表し方は「訓令式」を第一とし、例外的に「ヘボン式」や「日本式」の一部を使っても良い、ということである。しかも、その例外を認める文言は「国際的関係その他従来の慣例をにわかに改めがたい事情にある場合」とどうにでも解釈できる極めて曖昧な表現で記されている。


従って、この「ローマ字のつづり方」は、「訓令式」「ヘボン式」「日本式」のどれを使っても良い、と解釈されることを否定できない仕組みになっている。つまり、この三種類の表記法を統一するものではない、とことわっているわけである。建前を取れば、日本語のローマ字表記はこの三種類を不統一のまま使用することを否定していないことになる。


このローマ字表記法の不統一使用から来る国語教育及び日本語教育の現場への混乱は容易に予想できるし、それは現在すでに現れてきていると思われる。
一つ例を挙げて問題提起をしておきたい。

 

 <私は富士山を知っています。>

(1)Watasi wa huzisan wo sitte imasu.(日本式)

(2)Watasi wa huzisan o sitte imasu.訓令式

(3)Watashi wa fujisan o shitte imasu.(ヘボン式)

これらは発音を意識した場合のローマ字表記である。


次に「かな文字」を意識した場合のローマ字表記を示す。

(4)Watasi ha huzisan wo sitte imasu.日本式

(5)Watasi ha huzisan o sitte imasu.(訓令式)

(6)Watashi ha fujisan o shitte imasu.ヘボン式

 もし日本のローマ字綴りが日本語の本来の発音に近いものを示す役割を持つものを目指しているのならば、上の中では(3)になる。

 


日本語学習者にはできるだけ早くローマ字に頼らない学習に入ることを薦める。ただ問題は、日本に興味を持つ外国人のうち実際に日本語教師の指導のもとで勉強しているのは、ほんの数パーセントというのが現状ではないだろうか。
しかも「ローマ字の綴り方」は室町末期以来、日本社会に少なからぬ影響を与え続け、日本の初等教育の学校現場でも正式に教えられていることを考えると放っておけない面がある。


日本の初等教育では「日本式」を基として教えられ、実社会では英語の発音の知識から「ヘボン式」を基として慣用を優先して使用されているようだが、最近ではパソコンなどのローマ字入力の影響で「日本式」(
si,ti,tu,zi,woなど)が慣用として広まっているように思う。


現に「を」の発音を「
wo」と思い込んで教えていた日本語教師を私は一人ならず知っている。私が危惧しているのは単に「を」が「wo」と発音されるようになる(つまり平安中期以前に戻る)ことだけではなく、日本あるいは日本人が「外国語としての日本語」を想定してそれに対してきちんと準備して来なかった「つけ」を、さらに先送りすることになってしまうのではないかということである。


具体的にいうと「ローマ字の綴り方」について昭和
29年に国語審議会が答申したものを内閣訓令・告示として公布された「訓令式ローマ字綴方」(「日本式」を主とし「ヘボン式」{shi,chi,ji.など}も使用できるとしたもの)の影響を「外国語としての日本語教育」の現場が受け続けていることへの危惧である。

 

 

日本語母語者の間でローマ字を使わなければならない場面としては、今日では、日本語の文字が使えない状況での電子メールの遣り取りなどが思い浮かぶ。

 

 

日本語母語者の間で交わすローマ字文では、「Watasi wa huzisan wo sitte imasu.」でも「Watasi ha huzisan o sitte imasu.」でも、まず通じる。ヘボン式でも訓令式でもその混合したものでも、発音を写したものでも文字を写したものでもその混合したものでも、問題はあまりない

だろう。


問題は、日本語を母語としない人を対象にローマ字を使う場合である。

これはきちんと共通認識を持てるようにしておくべきだろう。

 


私はインターネットを通じて何人かの外国人の日本語学習者に次の文をローマ字で表記してもらった。同じ国からではなく、それぞれ日本語学習の場所が異なる7名から回答を得た。

 

*「明日は親友の大野栄三郎さんと一緒に富士山への初登頂を頑張って達成したあと、あっちで綺麗な風景をバックに写真撮影しようと思っています。」

 (あしたは しんゆう の おおのえいざぶろう さん と いっしょに ふじさん への はつとうちょう を がんばって たっせい した あと、 あっちで きれいな ふうけい を バックに しゃしんさつえい しよう と おもっています。)

 

・Ashita wa shinyuu no Ono Ezaburo-san to issho ni fujisan eno hatsutouchou wo ganbatte tassei shita ato, acchide kireina fuukei wo bakkuni shashinsatsuei shiyou to omotte imasu.

 

・Ashita wa shinyuu no Ono Eizaburou san to issho ni fujisan he no hatsutouchou wo ganbatte tassei shita ato, acchi de kireina fuukei wo bakku ni shashin satsuei shiyou to omotteimasu.

 

・ashita wa sinyū no Ōno Ēzaburou-san to issho ni Fujisan e no hatsutōchō o ganbatte tassei sita ato, acchi de kirē na fūkē o bakku ni shasin satsuē shiyō to omotte imasu.

 

・ashita ha shinyuu no oonoeizaburousan to issho ni fujisan he no hatsutoucyou wo ganbatte tassei shita ato, acchi de kireina fuukei wo bakku ni shashin satsuei shiyou to omotteimasu.

 

・ashita wa sinyuu no oonoeizabirousan to isshoni fujisanhe no hatsutouchou wo ganbatte tassei sita ato, acchide kireina fuukei wo bakku ni syasinstsueisyou to omotteimasu.

 

・asitaha sinyuu no oonoeizaburou san to itsyouni huzisan heno hatutouchyou o ganbatte tatsei sita ato attide kireina huukei o baykuni syasin satuei siyouto omottemasu.

 

・Ashitaha shinyuu no oonoeizaburousan to isshoni fujisan heno hatsutouchou wo ganbatte tasseishita ato, acchide kireina fuukei wo bakkuni shashinsatsueishiyou to omotteimasu

 

このように、日本語学習者である外国人の方々の書いたローマ字表記は、7名ともすべて異なる表し方になっている。

 

ローマ字には「ヘボン式(標準式)」「日本式」「訓令式」の3種類が存在している。しかも、ローマ字で日本語の「音」「かな文字」のどちらを表すのか、で二つに分かれる。つまり、単純に書き分けても6種類のローマ字の書き方が存在することになるのである。したがって7名の外国人の書いたローマ字表記がさまざまな書き方になるのは当然とも言える。

 

「ヘボン式(標準式)」「日本式」「訓令式」の異なる点だけ見ると、順番に次のような書き方をする。

「しshisisi」「ちchititi」「つtsututu」「ふfuhuhu」「じjizizi」「ぢjidizi」「づzuduzu」「しゃしゅしょsha shu shosya syu syosya syu syo」「ちゃちゅちょcha chu chotya tyu tyotya tyu tyo」「じゃじゅじょja ju jozya zyu zyozya zyu zyo」「ぢゃぢゅぢょja ju jodya dyu dyozya zyu zyo

 

これらのローマ字の書き方のうち、現在もっとも一般に使われている「ヘボン式ローマ字」に上に挙げた「ローマ字のつづり方」のきまりを加味して、「音」を表すことを意識すると、上に挙げた文例は、ローマ字では一例として次のようになる。

 

Ashita wa shin’yû no Ôno Eizaburô san to issho ni Fujisan eno hatsutôchô o ganbatte tassei shita ato acchi de kireina fûkei o bakku ni shashinsatsuei shiyô to omotte imasu.

 

これを「かな文字」を意識してローマ字で書くと、「明日は」の「は」は「wa」から「ha」になり、「初登頂を」などの「を」は「o」から「wo」、「への」の「へ」は「e」から「he」、長音「おう」も「ô」から「ou」になる。


しかし、実際はこれを混同して「
wa」(「音」写し)と「wo」(「かな文字」写し)を一緒に使う傾向が目立つ。パソコンなどのローマ字からの文字変換システムの影響で、最近では外国人だけでなく、「を」の発音が「wo」だと思っている日本人もいるようである。

 

私は長音「おお」「おう」に「ô」を使いましたが「ō」のように横棒を使ってもいいし「oo」としてもいいことになっている。

人名については「おおの」など「Ono」でもいいことになっているが、「小野」との区別ができない欠点がある。

 

「ローマ字のつづり方」は「訓令式」を基本に据えて第1表を示し、それを補う形で示された第2表に「日本式」と「ヘボン式」の表し方を示している。つまり、ローマ字の書き表し方は「訓令式」を第1にして使用し教えるべきだという考え方に立っている。

 

しかし、現実に日本社会や国際社会向けのローマ字表記は一般的に見て「ヘボン式」だと認めざるを得ないだろう。したがって、建前論でなく、現状を重視するならば、まず、この点をはっきりさせて、使用や教育する対象は「ヘボン式ローマ字」であることを表明しなおすべきであろう。

 

同時に、ローマ字表記の基本は「音」を表すことであり、「かな文字」を表記することは特別な場合だけ、と記すのが親切な告示になるのではないだろうか。


即ち「私は」の助詞「は」は「
wa」、「富士山を」の助詞「を」は「o,「東京への」の助詞「へ」は「e」と記すルールである。

 

最後に助詞「は」「を」「へ」のローマ字表記の工夫を提案したい。

例えば、「は」を「」、「を」を「ó」、「へ」を「é」のように「´」を付けてそれぞれ発音が同じ「わ」「お」「え」と区別する工夫である。こうすれば、「音」を意識したローマ字表記であっても、同時に例外的な「かな文字」の使い方をしていることが示されることになるからである。

 

以上、ローマ字表記の現状を鑑みながら、国語教育や日本語教育への影響、更には、国際社会と無関係ではいられない日本社会の将来も見据えて、緊急に見直されるべきローマ字表記の問題を提起し、若干の表記上の提案も示させて頂いた。

 

国語を学ぶ日本の子供たちや、世界中で日本語を学んでいる外国人たちに、要らないストレスを強いることなく、素晴らしい日本語の世界への入口でもあるローマ字の抱える課題を速やかに再検討して新しい指針を探るべきである、と思えてならない。

 

国語審議会には「国語教育」や「日本語教育」の現場にあるローマ字の表記法を巡る戸惑いや勘違い、ひいては混乱を鑑み、早急にこの問題を日本語の重要な問題として再審議していただきたい。


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