2017/07
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<連載>日本人のための「日本語のエッセンス」 第6章「彼【が】彼女【が】好きなの【が】問題だ」新考
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<連載>日本人のための「日本語のエッセンス」 
6章「彼【】彼女【好きなの【】問題だ」新考

 

文例:「彼【】彼女【好きなの【】問題だ」

 

この文は、まず「彼が彼女が好きだ」という文があり、次に「そのことが問題だ」という文でまとめられている。

 

好きだ」は形容動詞(日本語教育では「ナ形容詞」)とされている。したがって「海がきれいだ」「山が静かだ」と同様に「が」で主体を表す。すなわち「海がきれい」「山が静か」ということを感情主体が「だ」で断定する。

 

これを「彼女が好きだ」に当てはめると、「彼女が好き」ということを感情主体が「だ」で断定している。つまり「彼女が好きだ」だけの文だと、「好き」の感情対象は「彼女」だということである。そんな事情から、時枝誠記氏のように、この場合の「が」を対象格と名付ける文法学者も出てくるわけである。

 

「彼女が好きだ」の文に感情主体を加えると、普通は「彼【は】彼女が好きだ」となる。感情主体と感情対象は明確に区別できる文になっている。ところが、これを従属文にするとややこしくなってくる。すなわち「彼【が】彼女が好きなのが」のように「は」が「が」に取って変わられる。

 

さて、その従属文を持つ≪彼が彼女が好きなのが問題だ≫という文を考えてみる。

 

この文を読んで、たいていの人は「ん?」と首を傾げるだろう。そして今度は注意深く読んでみる…それでも「やっぱり変だ」と思う人もいれば、「いや、これでいいんだ」と納得する人もいるかもしれない。いずれにしても、この文は、意識的にせよ無意識的にせよ文法的に検証せざるを得ない構造を持っているようだ。

 

社内ゴシップを酒の肴にして話が弾む中で、若い社員が「結局、今回の件については何が問題なんでしょうね?」と先輩社員に水を向けると、「まあ、いずれにしても、いまだに彼が彼女が好きなのが問題なんだろうね」と人生の先輩としてまとめてみせる……表題の文からはこんな情景が想定できそうだ。

 

≪それにしても、この文は「が」ばかり三度も使っていて芸が無い≫と感じる人は多いだろう。

 

「彼【が】彼女【が】好きなの【が】問題だ」

この文のガ格を一般の日本語話者の感覚を想定し、それに応える形で、概括的に分析してみると以下のようになる。

 

疑問1 

まず、最初の疑問が起こるだろう。二つ目の「が」は「を」ではないのか? 

すなわち、「彼が彼女【を】好きなのが問 題だ」という文にしてみる。なるほど一見すっきりした文に見える。だが、「好きな」は形容動詞(日本語教育では「ナ形容詞」)であって動詞ではないのだから、少なくとも現在の日本語文法では「【を】好きな」とはならない。「【を】好きだと<思う>」ならば文法的に成り立つ。

 

型通り文法的に検証すると以上のような分析になるが、言葉は生き物である。時代とともに変化し、それが正当な日本語文になることも少なくない。

 

現に「彼は彼女【を】好きだ」という例には時おり出会う。

時代を写す歌謡曲のタイトルに「僕がどんなに君を好きか」、また本の題名に「自分を好きになる」と「を好き」いう表現が堂々と入っている。

 

あるロックバンドの歌では、歌詞の中で「が」と「を」を交互に入れ替えて使う始末だ。

「君と出会ったのは偶然だとかそうじゃないとかはいい そりゃ君【が】好きだから 今の君が全てだから 君と出会うまでの記憶など僕のモノじゃなくていい 君【を】好きな僕だから そんな僕【が】好きだから」

 

疑問2 

三つ目の「が」は「は」では駄目なのか? 

すなわち、「彼が彼女が好きなの【は】問題だ」という文になる。この文だけを見るのならばこれで良いのだが、「何【が】問題なのか?」の返答としては成り立っていない。三つ目の「が」を「は」に換えれば、先輩社員が敢えて「が」を用いてまとめ上げた意図が無になる。

 

疑問3

一つ目の「が」を「の」に換えられないのか? すなわち「彼【の】彼女が好きなのが問題だ」となる。この場合の格助詞「の」は従属節の中で主格「が」の役割を果たし、かつ従属節内の結束をより強固にする働きをする。

たとえば「彼【の】賭け事が好きなのが問題だ」ならば誤解はないが、「彼【の】彼女が好きなのが問題だ」では、「<彼の彼女>が好きな」とも解釈できて誤解を生むので、この文例の場合、「が」を「の」に換えることは避けなければならない。

 

疑問4

一つ目の「が」を「は」にできないか? 

すなわち、「彼【は】彼女が好きなのが問題だ」としてみる。しかし、原則的には従属節(この文では「彼は彼女が好きなの」)の係助詞「は」は格助詞「が」に取って変わられる。「は」は従属節を越えて文全体の述部に掛かってしまうからだ。この文では、「彼は」は「彼女が好き」にではなく「問題だ」に掛かってしまう。したがって、「彼【は】彼女が好きなのが問題だ」は発言者の意図から外れてしまうことになる。

 

それでも、敢えて「彼【は】」にしたとしても、ここでは「彼<については>」の意味になる。つまり、「彼」以外の人物、たとえば「彼女」については別の問題もあろうが「とにかく彼について言えば」こういう問題がある、という含みが込められてしまう。したがって、これでは「今回の件については」という若い社員の質問に応えたことにはならなくなる。ここは情況から考えて、やはり「が」にならざるを得ない。

 

疑問5

二つ目の「が」は「は」に置き換えられないか? 

この場合も「疑問4」の場合と同様に、「は」は従属節の中では使えない。そこを敢えて使うと「彼が彼女【は】好きなのが問題だ」となる。この場合は「他の人については好きではないが、彼女については好きだ」という含みが生じ、別の情況を暗示してしまう。やはりここも「が」がふさわしい、ということになる。

 

では、この文例「彼【が】彼女【が】好きなの【が】問題だ」のままでいいのか? 


まず、現在の共通語では「好く」という動詞が衰退したために、「好きな」を動詞のように扱ってしまっているのが、そもそもの混乱の原因になっている。また、「好む」という動詞は、たとえば「賭け事を好む」ならば違和感はないが、「彼女を好む」では明らかにそぐわない。

 

したがって、文法的充足を得つつ、文脈や情況の設定無しに「誰が誰に対して好意を持っているのか」を明確にしたければ、「疑問1」の検証で得た「【を】好きだと【思う】」を用いて解決するしかなさそうである。

 

つまり、「彼が彼女【を】好きだと【思っている】のが問題だ」が、話者の意図を充足させる文、ということになる。



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tag : 格助詞 好き 主格 対象格 感情主体

 
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